Intermezzo - Cahier

はてなダイアリから参りました(

『"文学少女"と慟哭の巡礼者』野村美月

シリーズ5作目。
※最初からひどいネタバレをばっちり含みます。既読の方、「ネタバレも忘れる事ができる」自信が満々の、私のような鶏頭を自認される方のみ、続きをお読み下さい。
まさか黒幕が千愛ちゃんとは。流人が『ちぃ』て呼ぶのがなんか許せません。最終兵器彼女』を連想させるし。嘘でした。『ちぃ』は『ちょびっツ』でしたね。
この巻に於いては、琴吹さんが痛めつけられつつも、最後まで心葉くんと一緒にいられて良かったですね的な。
美羽の事を片付ける際に、過去の終わり、現在の始まり、と云うような、わりと女性的な論理?体系で片付いているのが気になりました。心葉くんは男だし、なおかつああいう性格なので、こう云うカタのつけ方には無理がある気がします。でもいいのか。片付けないと次にすすまないし(笑
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を題材にすると云う事は、やはりカンパネルラの死が出てきますよね。カンパネルラの望みは死ぬ事と見つけたり、一緒に死のう*1みたいな。嘘です。
ちゃんとポジティヴな方向に持っていきながらも、題材としてうまく使えていると思います。

もしかしたら、みんな誰かのカンパネルラであり、ジョバンニであるのかもしれない。相手の気持ちがわからず、不安で、嫉妬して、哀しくなって……。
p.335

誰もがジョバンニであり、カンパネルラでもある。意外と自分がカンパネルラだとは気づきにくいものですけれど。気づいてしまうと、結構深い悩みに囚われるものですよね。甘酸っぱい話です。
美羽がトラックに飛びこんだとき、千愛ちゃんが、友人の死を思い出して絶叫するシーン、プラネタリウムで流人に微笑むシーン。

涙でびしょ濡れの頬をほころばせる竹田さんのその笑みが、本物かどうかなんて、どちらでも良かった
p.346

この竹田千愛と云うキャラクターが、シリーズ通してここまで重要なトリックスター、スパイスになるとは。素晴らしいです。
琴吹さんと美羽の喧嘩のシーン、みんながどんな人間になりたいか宣言しあうシーンは、青春モノっぽくていいですね。
心葉くんから美羽への自分の言葉での告白、ほんとうの美羽がどんな人間だったかはさておき、そのときの心葉くんのほんとうの気持ち、がんばって、伝えようとした気持ち。永遠の幸せは、この世に存在しないかもしれないけれど、ほんとうの幸せなら、そこにあるのかもしれない。心葉くんは愚かで弱かったけれど、気持ちはほんとうだった。美羽編のラストは、素晴らしいカタルシスでした。

“文学少女”と慟哭の巡礼者 (ファミ通文庫)

“文学少女”と慟哭の巡礼者 (ファミ通文庫)

すごいペースで読んでいますが、これは作者の筆力と云って良い、とずっと思ってます。軽やかさは文字通りライトノベルの武器なのでしょうが、この喉越しの良さは通り一遍ではないでしょう。
で、遠子先輩はどうするのでしょうか? まるで遠子先輩が神様で、月に帰ってしまう、みたいな予感がひしひしとしているわけですが。一応、神に臨む作家上下までは購入済です(笑

*1:これは第1作の題材『人間失格』w