序
やいま丸(旧パンスタードリーム
*1、旧旧さんふらわあ くろしお
*2)をご存知だろうか
石垣港~台湾 基隆港をつなぐ、日本最南端の国際旅客フェリーである
私的な話で恐縮だが、日本各地の出入国ポイントを巡る旅を2019年ころから趣味として力を入れ始め、クルーズ船やチャーター便を除く「定期便が就航している空港、港」をその対象としていた。石垣港に久しぶりの定期便が就航するという話題が出て、2024年ころから動向を注視していた関係で、就航したやいま丸にこのたび乗船する事になったので、顛末を記しておく
遠い前身、有村産業の歴史
沖縄と台湾を結ぶフェリー、我々の世代では「有村産業」を思い出す方も多かもしれない
- 1950(昭和25)年11月、与論町出身の有村喬により設立
- 1975(昭和50)年、那覇-宮古-石垣-台湾 基隆航路を開設(その後、台湾 高雄にも寄港)
- 1995(平成7)年、クルーズフェリー飛龍、クルーズフェリー飛龍21を投入
- 1999(平成11)年、会社更生法申請
- 2008(平成20)年、原油価格高騰により経営再悪化、6月6日全航路運航停止
- 2010(平成22)年、「有村産業」法人格消滅
有村産業の沖縄~台湾航路は、米軍占領下から沖縄本土復帰、昭和平成と長きにわたって流通・交通を支えたが、上記の通り2008/6/6すべての航路の運行が停止され、法人も消滅してしまう
その後、石垣~花蓮間、与那国~花蓮間などの航路新設の報道が流れたが具体化されず、約16年の時が流れる……
やいま丸就航延期の歴史
最終的に登場したのが、石垣市が主導する石垣~基隆間のやいま丸であった
下記は当初就航予定から七度の延期を経て就航するまでのタイムライン
- 2024/8/1、沖縄県石垣市が、旧パンスタードリームを使用し、当初2025年9月より石垣港と台湾の基隆港間に地元企業と同市が出資する新法人により就航する構想を発表
- 2024/9に設立された新法人「商船やいま」はパンスタードリームを「やいま丸」に改名すると公表
- 2025/8/9、やいま丸、釜山港から基隆港に到着、整備入り
- 2025/8/27、台湾で追加工事発生、就航は10月末頃に延期される予定と業務委託先のワゴングループ(華岡集団)が公表【延期1】
- 2025/9/16、石垣市担当者が就航時期は「まだ決まっていない。できるだけ早期に就航したい」と公表【延期2】
- ドライドック入りしての補修(船体塗装等と推定)は2025/10/8出渠
- 11月初旬、ワゴングループは台湾の港湾管理部局に申請書類を提出し審査中であると表明。該当航路は早ければ11月末、遅くとも年末までに就航する見込み【延期3・4】
- 2026年春節までに就航したいと台湾紙報道(ワゴングループWeb)もあったが、改修の遅れや手続きの影響、また日本側では不穏な動きを示唆する関係者証言等もあり、就航はされなかった【延期5】
- 2026年3月議会で中山義隆市長が4月就航を目指すと表明したが、3/23から「整備済のため早ければ2週間程度」と関係者が漏らした定期検査ドック入り、1ヶ月以上経過の4/28出渠までかかる等遅滞した【延期6】また「やいま丸は4月中に基隆〜蘇澳で運航試験をする!」説があったが4/30まで実施されなかった→5/11、蘇澳沖まで往復するカタチでパナマ船籍の審査とした模様
- 2026/5/4 八重山毎日新聞が5月中旬就航と報道したが【延期7】
やいま丸就航とこれまでのダイヤ
苦難の末の八度目の正直となったが、やいま丸が本当に就航したのはめでたい事で、これを端緒に「与那国港~花蓮港などの航路も(裏国防案件として)国が主導・補助して週1でいいから施策すればいいのに……」と外野の無責任な国境趣味者としては思うばかりであった
閑話休題、やいま丸である
2026/5/28(木)就航、2026/5/29(金)石垣港到着、その後就航セレモニー
2026/5/31(日)の帰路便は台風接近の天候悪化予想のため時間を早めて昼便で運航
=5/31 石垣港12:00発(日本時間、9h早)→基隆港21:00着(台湾時間、11h早)
その後の運航スケジュールは下記のとおり
■2026/6/29までは週1往復の運航
・木曜23:00基隆発~金曜8:00石垣島着
・日曜21:00石垣島発~月曜8:00基隆着
■2026/7/2~9/30は週2往復の運航
・火曜23:00基隆発~水曜8:00石垣島着
・水曜21:00石垣島発~木曜8:00基隆着
・木曜23:00基隆発~金曜8:00石垣島着
・日曜21:00石垣島発~月曜8:00基隆着
時間はすべて現地時間、台湾はUTC+8、日本はUTC+9
なお、台風などの影響から、比較的早めに運航中止(休航)の決定がなされ、台湾基準で往復で休航扱いとなる
この記事を記載した8/15時点では、18(5+8+5)往復中5(1+2+2)往復が欠航しており、欠航率は28%である。欠航実績は下記のとおり
2026/6/25、28発
2026/7/7、8、9、12発
2026/8/4、5、6、9発
やいま丸、乗船日調整、いよいよ乗船へ
就航日乗船チャレンジに挑むなどの選択肢もないではなかったが、直前に中国を訪問していて若干調整が難しかった
諸事調整の結果、8/2(日)の石垣港発に、Twitterで何かとお世話になっている出入国界隈の大先輩であるあいのさん、ご友人のえれさんとご一緒させていただく事となった
わたしは7/30、オーストラリアからの特典航空券の旅の足出しで伊丹空港から石垣島に前入りした
7/31、台湾から到着後、国際港に入港するクルーズ船の邪魔になる事もあって沖合で停泊中のやいま丸。パンスタードリームには乗っていたが、やいま丸に改装後、実物を見たのはこれが初めてであった

鳩間島航路の「ぱいじま号」船内より撮影

8/2朝の時点でも沖合で停泊中

バンナ公園の「エメラルドの海を見る展望台」より俯瞰撮影

さて、搭乗時間近くの17時になって石垣港国際ターミナルへ

石垣市公認マスコットキャラクター「ぱいーぐる」くんがお出迎え

フェンスや乗客歩道の屋根が手前にあって、やいま丸本体は少し見にくい状況

外壁に世界地図があるが、台湾の記載も島影だけでなく欲しかったところ

フロア案内図、入口にあるのに入国時の動線のみ記載なのはいかがなものかと感じた。当然、出国時は凡例の矢印と逆方向に動く事に

18:00から受付を開始だが、インバウンドの乗客をはじめ数十名がすでに待機していた
この時点で「あれ? けっこうお客さん多そうだぞ……?」という予感がした

レンタカー返却後、18時過ぎに実際に並び始めたが、前に約60名ほど乗客がおり、その後も我々の後に数十名が並んだので「これは100名は超えてるな」と推測
(CIQのため写真なし)
身体検査の機械がトラブルっぽく、若干時間がかかったものの、チェックイン、荷物身体検査、検疫税関検査、出国審査とスムーズに進み、約25分後にはやいま丸の前に出た
※出国印については私的46箇所め=
別記事参照

いよいよ搭乗

「讓時間慢一點,讓旅程更近一點」というやいま丸のスローガンは「時間をゆっくり過ごし、旅をより身近に」というような意味であろうか。スローライフな船旅の体験をアピールしているようだ

我々はスタンダードルームBなのでレセプションのこちらに並ぶ……までもなかった

上級客室ロイヤルスイート、デラックススイート、ファミリールーム専用の列も、少し上級のスタンダードルームA・Cの列もあった
すぐチェックインして鍵をもらって部屋へ

乗船中、船員に確認したところ、8/2当日の乗客は全221人、日本人は10人であった
*3
客室数から数えた定員数は493人
*4だが、相部屋などが実際は難しい事を考えると上々の乗客数と考えられる
夏の行楽シーズンという事も、次の8/5便が欠航決定済だった事も影響しているかもしれないが、台湾拠点の週末利用はなかなか需要があるように見受けられた
今のところ「台湾側にいい感じの運航ダイヤ」になっているが、正解なのではないかとも感じられた
逆に日本側で利用するとなると、片道飛行機にするなど一工夫が求められる。乗船前に石垣島民ですでに利用したという方にもお会いしたが、往路を那覇からの航空便にして復路のみやいま丸に乗船したとの事だった
やいま丸、船内設備と過ごし方
スタンダードルームBの4人部屋を予約していた。レセプションと同じ1F=Bデッキにある。ちなみに2F=Aデッキ、3F=ブリッジデッキ(乗員の宿舎もこちら)となっている

リーズナブルで人気があるものの2部屋しかないため予約を入れにくいようだったが、なんとか予約できた

4人部屋だが、相部屋OKという条件で3人で予約させてもらった。絶対3人で使いたい場合はもう1人分を支払って占有する予約にする事も可能

若輩者の小生が上段の大役を仰せつかった次第
充電用コンセントはこちらのタイプの客室では机のところと各ベッドの枕灯にもあり困らなかった。雑魚寝のスタンダードルームGなどは15人部屋に1か2口しかないようなので、各自分岐やタップ等持参すると安心である

相部屋の方はいつ来るかなと思ったが、結局来なかったのでラッキー(?)3人で一部屋使わせていただいた
ベッドが必ず使えるのはスタンダードルームBの2人部屋と4人部屋しかなく、ファミリールームやスタンダードルームA・Cは床に布団を敷いて寝るタイプ(Cは一部ベッド)なので、部屋の広さはあるのかもしれないが、設備面で料金と釣り合いが取れてない気がしてしまう。コスト面で言うとおススメは2人連れならデラックススイート、お一人様なら雑魚寝のスタンダードルームGとなる
当日は満室に近い盛況ぶりで、空き部屋を覗くような余裕はなかったので、各部屋の写真は公式を参照していただき、代表的な参考として船内図を置いておく。船内に掲示してある船内図よりもWebにあるほうが見やすい

「クルーズラウンジパラダイス」は2F=Aデッキにあり、デラックススイート以上のお客様にカードキーをお渡しして入れる専用ラウンジのようで

ちらりと拝見する限り、ここにはカジノ設備はなさそう。ただし、まだ「秘密の部屋」というべき部屋はなきにしもあらず

廊下には1F2Fを貫通する吹き抜けがあり、基隆と石垣のイメージ画像があって旅情を誘う

出航前に石垣港で夕暮れを迎え、いいムードに

船内店舗は、コンビニ的な売店(1F)は開いていたが、カフェ(3F)は出航後の開店となるようで、出発までの時間をやや持て余すかもしれない
我々はいったんお風呂(1F)を覗き、出航前から解放されているのを確認して汗を流した。撮影できなかったため写真なしだが、8/2便ではサウナも湯舟も利用できた。夕陽を見ながら揺れも少ない優雅な入浴となった
レンタカー返却直前に石垣市内のスーパーで買い出しをしており、風呂のあとは前祝。パンスタードリームでレストランだったスペースにテーブルや椅子が用意されていて自由に使っていいようだ

売店に台湾麦酒はあるようだったので、まずは沖縄のオリオンビール各種から……

0次会はおかげさまで充実(笑)、だいぶいい感じになってしまったので、売店を利用するまでもなかったが、ロングランできる方にはまだまだ夜は長いのでキンキンに冷えたビールも追加できる売店の存在はありがたい
酔い覚ましに船内散歩へ
2Fの階段わきにロッカーあり。乗船後即埋まるようであったので利用希望の場合はお早めに
ゴミ箱や湯沸かし器
*5などもあり
テーブル・椅子はしっかりしたものが設置されていて、レストランホールを含めても船内で一番快適かもしれない
写真は早朝撮影したが、夜は大家族が占拠してゐて賑やかであった

現在のやいま丸では、癒しの空間のメインとなるのは「カフェ夢(3F)」であろう
2Fの比較的遠いところから誘導がある😅

この螺旋階段を上るとカフェ内部へ

パンスタードリーム時代も「カフェ夢」を名乗っていたと記憶している(当ブログにもTwitterにも記載がない><)
「café夢」は終夜営業のようだった。出航後営業を開始して、朝基隆に着いた後も下船まで対応してくれた

夜はさっぱりパッションフルーツジュースをいただいた。100台湾元=約500円。日本円現金払いだと600円になるのでご注意を

夜間、外部デッキから見るとなかなかムードがある。「café夢ゆめ」と壁面に

メニューは下記のとおり。初期航海ではクレジットカードを使えなかったようだが、今回の航海では夜・朝ともにクレジットカードを使う事ができた
※日本、または台湾の携帯電話の電波の届く時間帯であった事を留意されたい

今回食事はしなかったが、このようなメニューもある

やいま丸改装時にここだけ改造したのか、金色のプレートを床に埋め込んである

室内の様子

朝は珈琲をいただいた。ほっとしますねぇ

売店(1F)は深夜は閉店していたが、飲料やカップ麺などを「café夢」で販売してくれる旨が船内放送されていた

早朝は日の出を見る勢がちらほら。基隆は台北よりやや東にあるので日の出もやや早い。この日の基隆沖の日の出は05:20だったが、水平線上ではほとんど雲に隠れてしまった。しかし、基隆沖にある基隆嶼や、近海の船舶などがよい配役となって素晴らしい景色を見せてくれる

朝食は台湾時間で配るのか、日本時間で配るのか……? 両者には1時間の時差がある。掲示では混乱させる書き方だったが、結局、台湾時間で配っていた
*6

早餐券をレセプションに持参すると朝食(早餐)を配布してくれる

甘じょっぱい三明治(サンドイッチ)と桃ジュース

やいま丸、乗客数実績
石垣市観光交流協会さんのFacebookにてやいま丸の乗客数をカウントされていたので抜粋しておきます
基隆→石垣便
5/28発29着:約200名※初便
6/4発5着:約188名
6/11発12着:約160名
6/18発19着:約279名
7/2発3着:約214名
7/14発15着:約89名
7/16発17着:約215名
7/21発22着:約101名
7/23発24着:約223名、
8/2発3着:221名(うち日本人10名)※当便のみ石垣→基隆便、筆者調査
8/11発12着:約87名
傾向としては週末需要の木金便は乗客数が多め、台湾から見ても平日真ん中な感じの火水便は乗客が少なめである
やいま丸、今後の展望
今後の展望としては、状況を見ながら週3往復を目指し、秋以降の貨物輸送開始を目論んでいるようである
しかし、そもそも就航と同時に実施できなかった理由を考えてみると、なかなか厳しい状況のようである
つまり、
台湾~石垣間に直接の貨物需要はない。
農産物であれば両者の気候・産物は似たもの(品種によるのか、旬は若干ずれたりしているようだが)があるし、工業製品となると台湾産を大量消費する巨大市場は石垣市にはないし、後背地をあてにするならば石垣~那覇・日本本土の貨物船の増強が必要になるが、すでに日本本土~台湾の貨物航路は確立されているのであり、これを石垣経由にするメリットは皆無と考えられる
日本製品を台湾で消費してもらうのも数少なくなった付加価値商品しかないだろうが、これまた既存の日本本土~台湾の貨物航路空路で対応済であろう
石垣市当局は頑なに「やいま丸の赤字補填は市として実施する予定はない」と答弁しているが、比率はどうあれ第三セクターとして市が出資していて、他に赤字を補填できる事業もないなかでは無理筋である。旅客輸送のみのやいま丸が仮に全便満員だったとしても黒字化はあるまい。ほぼ小学校算数のレベルの話だ。つまりいつかは石垣市またはどこかが赤字補填する段階になり、もとの金の出所(市民、または県民、または国民……)からの糾弾はまぬがれないだろう
*7
一回だけ乗船した一乗客であるわたしがたいした情報を握っているわけはないが、常識的に考えて「乗船をお考えの方がいらしたら、どうぞ早めに」と言う以外ない
個人的には、今回と逆の基隆港→石垣港にも乗船してみたい。有村産業時代は、人流・物流のニーズが少なかったためか、石垣港で入国するダイヤではなく、那覇港に直行していた。その前後で台湾(基隆には廟口夜市がある)や石垣島、八重山諸島を周遊してみるのも間違いなく楽しいはずだ
結びに
中山義隆石垣市長肝いりで始まったやいま丸プロジェクト
採算性や継続性に対する疑問から、膝元の石垣市議会でも与野党問わず様々な意見が寄せられているところだが、18年ぶりの再開による新たな航路は、観光や公的行事などの人流と物流をつくり出し、日台友好などの象徴的な意味合いも含めて意義深いものと言えよう
採算面での難しさは18年前の有村産業破綻を見るに自明であり、このような航路は、まず石垣市などの地元・民間が発議しつつ、繰り返しとなるが国が主導・補助して維持すべきものと個人的には考えている
「未来へつなぐ架け橋となるべく」末永い就航をお祈りするものである