Intermezzo - Cahier

はてなダイアリから参りました(

『"文学少女"と飢え渇く幽霊』野村美月

※たいした事はないですが、少しだけネタバレを匂わせる部分がありますので「続きを読む」記法でございます。
仕事で遅くなったにもかかわらず、二晩+昼休みで『"文学少女"と飢え渇く幽霊』を読了。
とても読みやすくて、それでいて少し迷走気味なのですが、やっぱり面白かったです。
黒崎さんとか、主人公の心葉くんにあまり共感できないのは女性作家の限界なのでしょうか。と云うのは漫画でもよく思いますが。まぁ逆はもっとそうなのであまり云えた事でもないでしょうか。しかしながら黒崎さんの心の動きがまったく不明。わざとブラックボックスにしているわけでもなさそうですし。
逆に、今作のヒロイン、雨宮蛍の感情の複雑さは、考えさせられる部分もあって、しみじみと、よい。
蛍と黒崎さん、悲劇で終わる二人。想像の中だけでも幸せにと主人公が願って書いた文章を、遠子先輩が評して曰く

「林檎をレモンと蜂蜜とワインで煮込んで、冷たく冷やした、コンポートみたい……とっても……甘くて、美味しいわ」
p.308

林檎の柑橘系コンポートは甘くて苦い。この作品もまさにそんな味わいでした。
遠子先輩は、実際は現実の料理の味がわからないので、上の科白のような言葉は常に、想像、妄想から出てくるのですが、それがまた切なく甘い。これに関する物語はきっとこれから用意されているんだろうなと期待しながら、シリーズを読んでみたいところです。
ツンデレも結構なのですが、シリーズを通して、琴吹ななせには何か仕掛けがあるようなないような。でもこの作品のテーマ的な部分でもある、「人間の感情で一番強いのは、憎しみ」「愛しているからこそ憎み続ける事ができるし、憎んでいるからこそ愛し続けることができる」と云う部分のライト版? なのかなぁ。やっぱりこの作品単体で見ると、特に存在理由があるようには思えないのが残念。
それにしても、現実世界で"文学少女"萌えなるシチュエーションに遭遇した事は(中略)ですが、いずれにしても遠子先輩のような"文学少女"がいたら、一瞬で落ちそうな気がします。

”文学少女”と飢え渇く幽霊 (ファミ通文庫)

”文学少女”と飢え渇く幽霊 (ファミ通文庫)

蛇足ですが、モノを書く立場から見ると、ちょっと冗長なきらいがあります。冒頭で迷走気味と書いたのはそのあたり。
もう少し時間をかけて、不要な部分を削れるような気がします。直感的には、姫倉さん不要?
今作のストーリーの中で、第一作から登場している(毒は強いけど、ハルヒ鶴屋さん的なキャラ?の)姫倉さんがからんでくるのが意外。もしかすると、それは構成上、失敗だったのかもしれないと思うのであります。
長さ的には、この作品の総ページ数は、316ページですが、232ページくらいにできれば、さらにまとまった……のかな?