佐賀県の古川康知事が26日に同意(事前了解)した九州電力玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)のプルサーマル。国はこの計画を核燃料サイクル政策の当面の柱と位置づけるが、実態は余ったプルトニウムを消費する手段だ。知事は決定に際して、二階俊博・経済産業相を招くなど、安全に対する国の約束にこだわったが、経済性や安全性への疑問の声は少なくない。【中村牧生、阿部義正、栗田亨】
政府がプルサーマルにこだわる理由は、使用済み核燃料から抽出したプルトニウムの行き場を早急に確保するためだ。日本が英・仏の再処理工場に委託するなどで抽出したプルトニウムは現在約43トン。これを在庫として抱える状態になっている。原爆に転用可能なプルトニウムの使い道を国際社会に示す必要に迫られていた。
国は、全国の原発から出る使用済み核燃料を再処理し、燃え残りのウランとプルトニウムを再利用する「核燃料サイクル」を基本政策としている。実現するための中心施設は高速増殖炉だが、95年に原型炉の「もんじゅ」(福井県敦賀市)がナトリウム漏れ事故を起こすなどで実用化が遠のいた。苦肉の策として打ち出されたのが通常の原発でプルトニウムを燃やすプルサーマル計画だ。
プルサーマルの実施をめぐっては、これまでに関西電力高浜原発3、4号機、東京電力福島第1原発3号機、同柏崎刈羽原発3号機が、国の許可後、地元の同意(事前了解)を得た。
関電は99年に地元の事前了解を得たが、燃料製造を発注した英燃料加工会社がデータ改ざん問題を起こした。また、04年には美浜原発の死亡事故があり、事前了解が凍結状態になっている。東電の2原発ではMOX(混合酸化物)燃料の搬入まで終わり、いつでもプルサーマルが実施できる状態だが、02年に発覚した原発トラブル隠しで、地元の事前了解が白紙撤回されたままだ。
このようにデータ改ざんや事故などが相次ぎ、いずれも「凍結」や白紙撤回の状態になっている中、玄海原発はトラブルがなければ、4年後にもプルサーマルが実施される可能性が高くなった。
しかし、プルサーマルは燃料の利用効率が高速増殖炉と比較にならないほど低い。また原子炉内で制御棒の利きが悪くなるという点は経産省も認めている。
京大原子炉実験所の小出裕章助手は「プルサーマルはまさに、高速増殖炉が遠のいた今、余ったプルトニウムの始末をつけるための政策。燃料の利用効率や経済性は破たんしている。ウランとプルトニウムの粉体を均一に混ぜるのは難しく、原発が現状よりも危険になることは間違いない」と指摘する。
古川知事は2月に「プルサーマル計画が実施されても安全性は確保される」と異例の“安全宣言”をし、同意は時間の問題とみられていた。だめ押しとして二階経産相の同県訪問と「安全」発言を引き出し、県民の目に国の責任を強く焼き付けたうえで同意する戦略を取った形だ。
実は知事の「安全宣言」には、知事を支える最大会派の自民党県議の中からも真意に戸惑いの声が上がっていた。その後、地元の玄海町が同意の意向を示し、県議会も「推進」を決議したことから、宣言から2カ月足らずの間に一挙に事態は進んだ。
同県では懸案の九州新幹線長崎ルートの建設が一部地元自治体の反対で難航しており、1年後に知事選を控えるなか「課題の一つを早く解決したかったのでは」との声も出ている。
九電がプルサーマルの同意(事前了解)願を出したのは東京、関西両電力の計画が頓挫するなど風当たりが強かった04年5月。同意まで1年程度をみていた当初想定よりは10カ月ほど延びたが「遅れたというより、意を尽くしたという気持ち」(松尾新吾社長)と振り返る。
松尾社長は、プルサーマル推進を盛り込んだ「05年原子力政策大綱」の策定会議の委員の一員。九電が国内初のプルサーマル実施を実現すれば、電力業界での発言力は増すとの見方もある。
九電は10年度までの実施を目指しMOX燃料の発注作業を急ぐ。一方で、玄海町に隣接し、計画への慎重意見が強い佐賀県唐津市に担当者を常駐させるなど地元への理解活動も引き続き進める方針だ。
(毎日新聞) - 3月27日10時23分更新